その3日間は平坦ではなかった

3日間で広告を配信した、と前回の第2弾で書いた。その配信結果の記事に続く完結編として、今回は配信までの3日間に起きたことを残しておく。

日数だけ見れば短い。ただ、その中身は平坦ではなかった。ひとつ越えたと思うと、次の壁が正面から現れる。それを越えると、また別の方向から押しかけてくる。頭の中でチェックリストを作りながら進めていたつもりが、チェックリストに載っていない罠ばかりを踏んでいた。

配信までにたどり着く過程で、特に印象に残った3つの罠を、起きた順に書く。

3 Days, 3 Traps
支払いで
詰まる
認証で
デッドロック
UIと現実の
ズレ

罠1: 支払い情報が登録できない

business.settings / payment
!
国、通貨は後から変更できません
この設定は、アカウント作成時にのみ指定できます。

広告を出すには、まず会社の情報をまとめる入れ物を作り、その中に広告用のアカウントを作る必要がある。管理画面の案内に従って情報を埋め、広告用のアカウントを作り、最後にクレジットカードを登録する。手順だけ見れば一本道だった。

支払い情報の登録で、カード番号を入れると弾かれた。同時に、画面の中央にポップアップが出た。

「国、通貨は後から変更できません」

文言としては短い。ただ、最初は意味がつかめなかった。何がどこで変えられないのか、どうしてクレジットカードの登録で止まっているのか、文字面だけではわからない。複数の設定画面を行き来して、ようやく背景が見えてきた。

ビジネスアカウントを作ったときに、「国・地域」の項目があった。必須印はついていなかった。あとから設定すればいい項目だと思って、自分はそこをスキップしていた。

それが、ここに来て効いていた。

国・地域が決まらないと、どの国の税制や規制で処理するかが決まらない。処理する国が決まらないと、支払い手段の登録は通らない。そして、国・地域は一度決めたら後から変更できない。今は未設定の状態だが、あとから「日本」と入れれば直る、という類いの項目ではなかった。

ビジネスアカウントごと作り直すしかないのか、と一瞬思った。ただ、調べていくと、少し違うルートがあった。広告用のアカウントを作り直せば、その作成時に国から設定できる。ビジネスアカウントを捨てずに済む。

そのはずだった。ここで、別の制約に当たった。

支払いの実績がまだ立っていないビジネスアカウントでは、広告用のアカウントは1つしか持てない。しかも、壊れた広告アカウントを閉鎖しても、その1枠は消費したままで戻ってこない。作り直そうとしても、もう枠がない。

つまり、現状のビジネスアカウントの中では、詰んでいる。

幸い、ビジネスアカウント自体はもう一つだけ作れる仕様だった。新しいビジネスアカウントを別名で立てて、その配下に広告用のアカウントを作り直す。最初に国・地域をきちんと埋める。支払い登録を先に通す。元のビジネスアカウントに載せていた設定は、ほぼ全部やり直した。半日かけて積み上げたものが、一度リセットされた。

一度決めたら戻せない項目と、一度取ったら返ってこない枠が、画面のどこにも目立つ印もなく並んでいる。その怖さを、初日の夕方に学んだ。


罠2: 翌朝、認証でデッドロック

本人確認 / 認証手段を選択
SMS 選択可
メール認証
バックアップコード
アプリ認証
この画面には SMS しか表示されない。

ビジネスアカウントを作り直し、国・地域を入れ、支払いを通した。その日は遅かったので、続きは翌日に回した。

翌日の夜、作業を再開しようとして、管理画面を開いた。

開発者アカウントのダッシュボードに入ろうとすると、「異常な動きが検出されたため、本人確認が必要です」という画面に止められた。前日にビジネスアカウントを立て直し、広告アカウントを作り直し、短時間で設定をいじり倒したのが、何かの機械判定に引っかかったのかもしれない。理由は画面には書かれていない。

本人確認をすれば通るはずだった。画面に表示されている確認手段は、ひとつだけだった。

SMSで、登録した電話番号に確認コードを送る。

他の手段は並んでいない。メール認証も、バックアップコードも、アプリ認証も、この画面には出ていない。SMSを送る、その一択だった。

コードを送るボタンを押すと、別のエラーが返ってきた。

「この電話番号は他の多くのアカウントで認証に使用されているため、別の番号を入力してください」

この番号を、多くのアカウントで使った覚えはなかった。ただ、プラットフォーム側がそう判定している以上、こちらで反論する画面はない。別の番号を使うしかない。

別の番号を、アカウントの電話設定に紐付けた。番号は正しく登録された。設定画面を更新すると、確かに新しい番号がプライマリとして表示されていた。

ところが、止められている本人確認の画面に戻ると、そこには依然として最初の番号しか出ていない。どこかにキャッシュされた番号なのか、別の場所を参照しているのか、原因はわからない。登録し直した新しい番号は、認証画面には反映されない。

これがデッドロックだった。

認証手段は、SMSひとつしか表示されない。SMSを送る番号は、多数使用済み判定で弾かれる。別の番号に切り替えても、認証画面には届かない。進める方向が、どこにもない。

問い合わせ窓口はあった。ただ、用意されているのは広告運用側のサポートで、開発者アカウント側には専用のサポート体制がないようだった。念のためビジネス側の窓口に連絡してみたが、開発者アカウントの件は扱えない、という趣旨の返答で止まった。窓口の人に落ち度はない。そもそも担当範囲の外だった。

開発者アカウントを自分で運用する道は、ここで諦めた。

代わりに、AIから広告APIへ直接つながる別の経路を探した。開発者アカウントを自前で持たなくても、すでに認可を取り終えた仲介アプリを経由すれば、同じ広告アカウントに対して同じ操作ができる。そういう道具が、いくつか存在していた。

そちらに切り替えた。そのアプリをインストールし、広告アカウントへのアクセス権を渡すと、AIから広告APIに命令を出すためのトークンが受け取れた。自前で開発者登録をして、アプリを作り、権限を付け替え、SMSで本人確認をする、というルートを、丸ごと迂回できた。

迂回であって、解決ではない。ただ、止まっているよりは動いている方がいい。


罠3: AIは昨日の管理画面を見ている

AIが言った場所
ダッシュボード
レポート
ユーザー
設定(歯車アイコン)
「左メニュー下部の歯車から」
実際の画面
JIN J
プロフィール
設定
ログアウト
右上のプロフィール画像から開く。

別ルートで作業を再開した。トークンは手元にある。あとは設定を整え、広告を配信するだけだった。

ここで、3つ目の壁に入った。

これは、罠と呼ぶべきかどうか、最初はわからなかった。ただ、じわじわと時間を削る種類の壁だった。

AIに「次はビジネス設定の中から、ユーザー管理のメニューを開いてください」と案内された。管理画面を開いたが、ビジネス設定のメニューに「ユーザー管理」という名前の項目はなかった。似たような項目はあった。ただ、AIが言った場所にはない。

「左メニューの一番下にある歯車アイコンから設定画面に入ってください」と次に案内された。左メニューの一番下に、歯車アイコンはなかった。設定に入るには、右上のプロフィール画像をクリックして、出てきたドロップダウンから選ぶ形になっていた。

「アプリの権限リストを開くと、ads_managementの横にトグルスイッチがあります」——アプリの権限リストを開いても、トグルスイッチはなかった。権限はチェックボックスで、リスト構造も違っていた。

そのたびに、現在の画面のスクリーンショットをAIに渡して、「実際の画面はこうなっている。この中からどれを選べばいいか」と聞き直した。AIは画像から状況を読み取って、「右上のメニューから『アクセス管理』を選んでください」と修正案を出してくれる。それで進むと、また次のステップで同じことが起きる。

原因は単純だった。AIは学習時点までの管理画面の姿を知っている。一方、プラットフォーム側の管理画面は、数週間から数ヶ月の単位でレイアウトが変わる。メニューの名前が変わり、場所が変わり、アイコンが消えたり新しく足されたりする。AIが「知っている」画面と、目の前にある画面は、同じ場所について話しているのに見え方が違う。

笑ったのは、一度「そこにはないはずです」と自信満々で否定した項目が、画面の真ん中に堂々と表示されていた場面だった。古い情報で話すAIは、堂々としている。画面を見ているのは、自分だけだった。

越える方法は、ひとつだけだった。AIの案内を鵜呑みにせず、画面を見て、ズレを伝えて、一緒に最新の姿を探す。案内されたボタンがないなら、「そのボタンはありません。代わりにこういう選択肢があります」と画面の状態をこちらから言葉にして渡す。そうすると、AIは目の前の画面に合わせて再提案してくる。

同じやり取りを何度も繰り返しながら、設定を一つずつ埋めていった。


3日目の夜、ようやく線がつながった

トークン自体は、もっと早い段階で手元にはあった。迂回ルートに切り替えた夜の時点で発行されていた。ただ、そこから管理画面の設定を埋めて、権限を整え、APIにコマンドが届く状態までパスを通すのに、さらに時間がかかっていた。

3日目の夜、そのパスが、ようやく最後まで通った。

そこから先は、一気に景色が変わった。第1弾の記事で書いたとおり、設計も、ターゲティングも、クリエイティブの方向性も、エージェントたちとのディスカッションで決めていった。「こういう層に、こう届けたい」「じゃあこの配信設定はこうしましょう」「この訴求だとどう響くか」というやり取りが、手を止めずにそのままコマンドに落ちていく。

支払いで止まり、認証で止まり、UIのズレで止まっていた3日間の、あの重さが嘘のようだった。

広告は、配信まで動いた。


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