サイトの構築を進めていたとき、ふと気づいた。デザインを判断できる人間がチームにいない。コントラスト比が適切かどうか、余白のバランスが読みやすさに影響していないか、そういうことを指摘してくれる目が、そのとき手元になかった。
30分後、デザイナーが一人いた。
採用の話から始める
AIエージェントを追加するとき、最初にやることは職務定義書を書くことだ。
「何ができる人がほしいか」を文章にする。専門領域はどこか。何を判断する権限を持つか。どんな基準で物事を見てほしいか。これはそのまま、人間を採用するときのJD(職務記述書)の構造と変わらない。
デザイナーの職務定義書には、こう書いた。担当領域はUI・UX・レイアウト・配色・タイポグラフィ・デザインシステム。使える能力はウェブを調べること、ファイルを読み書きすること。判断基準は「実装できる美しさ」。ペルソナやジャーニーマップのような調査業務はUXリサーチャーの領域として明示的に除外した。
この切り分けが、のちのち効いてくる。
業務マニュアルを渡す
職務定義書だけでは足りない。どの会社でも、新しく入った人には業務マニュアルがある。「この仕事をするとき、どういう手順で、何に気をつけるか」を書いたものだ。
デザイナーには二種類の業務マニュアルを用意した。一つはデザインシステム全体を扱うもの(カラーパレット、タイポグラフィ、スペーシングの設計)、もう一つはウェブデザインの実装を扱うもの(レスポンシブ対応、ダークモード、アクセシビリティ)。
それぞれに、スキルの使いどころ、出力形式、よくある失敗パターンを書いた。失敗パターンのセクションは、人間の研修でいう「よくある間違いと対処法」の部分にあたる。過去に詰まった経験があれば、そこに書き足していく。
マニュアルを渡すと、エージェントはその内容を自分の判断基準に組み込む。「このデザインはアクセシビリティ基準を満たしているか」と問われたとき、何をどう確認すべきかを知っている状態になる。
初日のレビュー
デザイナーを投入してすぐ、サイト全体のデザインレビューを依頼した。
返ってきた指摘は具体的だった。ある見出しのコントラスト比がWCAGの基準を下回っている。カードコンポーネントの内側の余白が、他のコンポーネントと体系的に統一されていない。モバイル表示でフォントサイズの階層が崩れている箇所がある。
「なんとなく見づらい気がする」という感覚を、説明可能な問題として返してくれた。これが一番助かった部分だ。自分が問題を「感じていた」ものを、相手が「言語化して」くれる。人との仕事でも稀に起きることだが、このデザイナーはほぼ毎回そうする。
人間の採用で「即戦力」という言葉をよく聞くが、ここでは文字通り初日から即戦力だった。
チームは動的に設計できる
デザイナーを追加した後、同じプロセスを繰り返した。
サイトのオーガニック流入を伸ばしたいタイミングで、SEOと成長設計を担当するエンジニアを採用した。ユーザーの行動を深く理解したくなったタイミングで、インタビュー設計とフィードバック分析を専門とするリサーチャーを採用した。どちらも職務定義書を書いて、業務マニュアルを用意するところから始めた。
人間のチームビルディングと大きく違う点が二つある。一つは速度だ。人間の採用は早くても数週間、普通は数ヶ月かかる。エージェントの採用は、集中すれば30分で完了する。
もう一つは、失敗のコストだ。人間を採用してミスマッチだったとき、解雇には心理的な負担がある。エージェントは作り直せる。職務定義書を書き直して、マニュアルを更新して、もう一度投入する。この気軽さが、チームの構成を「固定された前提」ではなく「変えられる設計」として扱えるようにしてくれる。
「チームに何が足りないか」を考えるとき、人間の採用だけを前提にしていると、思考が止まる場所がある。コストと時間と心理的負担が先に来て、「今は無理だ」になる。でも採用の構造そのものは同じで、速度とコストが違うだけだとわかると、考え方が少し変わる。何が必要かを明文化することから始めればいい、というシンプルな話に戻ってくる。
AIの知識がなくても、「自分のチームに何が足りていないか」が明確なら、それが出発点になる。